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あの頃のバレンタインの贈り物

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学生の頃、男性からこの日に花を貰った。

バラを1本。


ちょうどこんな暖かい色のバラでした。


バレンタインってのは知っていたけど、もうレポートの追い込みで必死だった頃なので、
ただ単にありがとう・・・と貰っておいて、図書館の席の隣に置いてそのままレポートを書いてました。


帰宅する時に、街を歩いていて、その日がバレンタインだと知りました。

あ、女の子がチョコを渡す日本だけなぜか逆の風習の・・・と思って、はっと気がついたのはバラの花の意味。


3月のお返し日にはもう春休みなので、男性はお返しができない。

なので、海外の風習と同じに・・・くれたの??
解らないまま、バラの花1本を持って自宅に帰った。


翌日、くれた本人に学食で会った。

昨日はありがとう・・・と言ったら、向こうが、パッと明るい顔になって、いいんだよ、別にと。


何も解らないまま、友人と学食で食事して授業を受けて帰宅。


その後、バラの意味をやっと解った私。

あれって・・・そうだったの??
鈍い私は何も解らないまま、返事もしないまま卒業していきました。


その彼に、病院で会った。
もうずいぶん長いこと会っていない。

骨髄移植のドナーになった私は、病院の待合室、それも血液内科診療が終わった後に、声をかけられた。

もう姓が変わっていたけど、名前がちょっと珍しいので私とわかったらしい。
それに顔も変わっていない。


「やっぱりそうだ、すごい久しぶり。」
私は、誰だっけ???と頭の中をリサーチしても出てこない。
住んでいる東京を離れて、昔通った大学のある街。
知り合いも少ないのに、誰だか思い出せない。

苗字と学部と、昔のエピソードを言っても半分くらい決め手がなかったけど、
「バレンタインにバラの花」これで思い出した。



「なんで、ここにいるの?それも血液内科」彼、五十嵐君から言われた。
「あ、弟が白血病で、私がドナーになったの、それで検査と事前採血」

こんな場所で思いがけずに出会ったら、思いもかけない酷な話なので、五十嵐君は絶句する。


「なんか、凄くない?ドナーになるって。それで帰ってきたの?」
「そう。でも、そっちは何?ここ血液内科だよ!」

五十嵐君は青い品のよさそうなセーターに、オフホワイトのシャツの襟が見えている。
片手に持ったジャケットは暖かそうだ。

「おふくろを連れてきた。ま、白血病じゃないけどね」

五十嵐君はジャケットを持ち変える。左指には指輪がない。
「お母様は、もう済んだの?」
「あぁ、入院だからその手続きで。血液内科のベンチが一番すいているから、座っていた」


私は会計を済ませて、薬を貰った。

五十嵐君は車で来ていて、駅まで送ってくれると言った。

病院から駅までは循環バスが出ているが、本数が少ない。

緑のボルボV70。
「趣味いいんだね、ボルボじゃないの!」
「雪道が多いからこれにした」

後ろの席のドアーを開けたら、前に座れば?と言われた。
「チャイルドシートあると思ったの、前は」

「チョンガーだよ、まだ。」
「ごめんね、もう子供くらいいると思ったから」
「忙しくて結婚する暇もない、相手もいない」
「今何してるの?」
五十嵐君は会社の研究所に勤務だった。
都内でもその研究所はある。

途中にあるイタリアンレストランのパーキングに車を入れた。

前にヨギと食事したレストランだ。
まだ、あったんだと思って懐かしく見る。

まだ、ランチタイムの時間だったので二人で入った。
病院のレストランではなんだか匂いが気になり食事ができなかった。

日替わりのランチを頼む。

五十嵐君が、お前変わってないよね、昔のまま大人になった感じでと言う。

同級会にも同窓会にも、遠方を理由に出ていなかった。


「同窓会でないだろ、クラス会も。だからもう野郎ばっかで。」
「エンちゃんとかクミチョウは?」
「でないでない!俺だって幹事した時に葉書出しても行方不明のままだもの。お前も」

クラスの友人何名かは知らせておいたが、その後、私も引越ししていて住まいが違う。
でも、実家の場所だけは変わっていない。

「実家には届いているみたい」五十嵐君の胸ポケットの携帯が震える。

メールらしくて、確認している。

「返事しなくていいの?」
「友人だからあとで」
「女でしょ?」
「ハズレ、セキヤだよ」

懐かしい名前が出た。
「セキヤん家の息子にうちにあるスキーをあげるんだ、それで」
「セキヤ、子供いるんだ!いくつ?」
「今度中学、すんげー背が高いの、中学で170あるんだぜ。親よりも高い」

身内ネタを話しているとランチが運ばれてきた。

五十嵐君が、絶対に他の人から見たら、夫婦が仲良くランチだよね!と言う。

誰が見ても、夫婦でランチをしている風に見える。だけど、元クラスメートのランチ。



メールアドレスを交換して、駅まで車で送ってもらった。
移植手術の日には、神様にちょっと祈っておくよとエールを貰った。

五十嵐君に最後に訊いたのはあのバラの花のこと。
「そう、今頃気がつくお前も凄い鈍いと思うけど」

五十嵐君は、帰国子女だった事を思い出した。
子女とつくけど、本当は男子ででそれも香港からの帰国。

彼にとっては最初の本当のバレンタインだったみたいでした。


バレンタインで思い出すのは、五十嵐君と淡いオレンジのバラです。
by wisteria-garden | 2010-02-14 13:43 | spinoff 彼と私と彼の彼


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by アキノ

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